季節外れのイロイロをもたらした低気圧

前回の更新から20日ぐらい経ってしまいました.層厚しているうちに,あ,そうこうしているうちに12月も中旬.気象予報士試験まで1か月ちょっとという所になりました.ただでさえ忙しい年末がやってくるわけですが,体調崩さないように頑張りましょう(・∀・)

そんな忙しい最中,昨日は低気圧や前線が日本付近を荒らしまくって通過していきました.各地で色々な季節外れをもたらしました.太平洋側の各地では,冬だというのにスゴイ大雨で,特に高知県大栃では時間86.5ミリという観測史上1位の記録を冬の時期に更新しちゃいました.風も軒並み20m超えで,気象庁の観測ではありませんが,東京湾でも20m以上の風がびゅーびゅー吹いていました.

925hPa相当温位・風(全て初期時刻から3時間後)と雨の様子.11日3時から18時まで3時間毎に見てみると

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低気圧の南側には330K以上の高相当温位が強い南寄りの風で流入しています.その先端が突っ込む所や,南から南東斜面側に強いエコーが見られました.まだ突っ込みの甘い関東地方でも,早くからしっかり雨が降り出していますね.これはポイントです.6時から9時にかけて,いよいよ関東方面にメイン暖湿気流入が移り,こちらも久しぶりの土砂降りとなりました.8時頃に家を出たワタクシは,駅まで歩いている最中に長靴から上着まで,まるで傘を持っていなかったかのように,ぬれ鼠になりました….その後12時には低気圧の中心も東の海上に抜けはじめ,関東の雨は大体止んできましたが,雨が弱まったら,待ってましたとばかりに暖気が流れ込み,一気に気温が上昇しました.(あとは,夕方から夜のはじめ頃にかけて,最後にシアの南下に伴って,もう一発雨を降らせて関東の雨は終了となりました.)しかし,こんなに低気圧が発達するとはなー.

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朝9時の500hPa風・渦度分布図と水蒸気画像です.九州の南から本州南岸を北上する強風軸(渦度0線を参考)は流れが強く,トラフに対応する暗域は明瞭で,コントラストがクッキリしています.この先端ではさぞかし不安定で低気圧の発達に寄与したか,ということでしょうか.ちなみに,この暗域に覆われてくることで,関東地方の雨はお昼までには大体止んできて,それだけでなく急速に晴れてきたということです.

では,もうちょっと拡大して関東地方だけにスポットをあててみます.こういう時,関東地方では下層の冷気層がガンバリマス.冷気層のせいで,南岸低気圧の雨雪が変わることもある,関東平野のちょっとした名物です.

エマグラム10日9時(緑),10日21時(青),11日9時(赤)の舘野状態曲線.

10日の朝9時と言えば,高気圧の中心は東の海上に抜けて,関東地方には高気圧後面の南風が入る形です.普通にいけば…でも,状態曲線で見ても分かるように,下層にキツメの逆転層があります,ずっと….南から風が入ろうとしたって,よほどの強風が吹かない限り,冷気層はなかなか壊されません.例えば,数値予報の計算では南風が入って気温が上がる予想でも,実際には南風なんか全然入らず,それどころか冷気層に乗り上げた暖湿気ですぐ雲が広がって,寒いぐらいじゃないかっ(・∀・)!大胆に予報をハズすこともあります.たしか10日の気温がそんな感じで予報はずれたんじゃなかったかな.

まあ,こんな状況で関東平野にはお得意の冷気層があったわけです.そこに,南から暖湿気が流入してきたので,別に早い段階から雨が降り始めていたのです.その冷気層,低気圧の接近に伴ってどれだけ踏ん張っていたか,地上気温の変化で見てみます.朝5時から10時までの1時間毎です.

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南岸は端から南風のやや強い風が吹き,気温も高い状態です.温度線が混雑していることからも,南岸に温度の壁がそびえていることが分かります.なんか屈強そうでしょ?それが段々と,外側から攻め込まれていきます.等温線の集中帯が次第に中に入っていく様子が分かります.ただ,冷気層もやはり強く,一気にその牙城を崩すことはできません.そのギチギチの攻防戦となっている…いや待てよ,北風がスゴイ強いわけではないということは冷気はただそこに居座っているだけで,むしろジタバタと戦っているのは暖気だけか(・o・;)…そんな沿岸にできた局地的な前線部分では,戦いに負けた暖湿気がぐいぐい昇天して,かなりの雨を降らせました.それが私のぬれ鼠の原因です.

<イメージ図>

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暖気が頑張って流入できた所では,短時間のうちに一気に気温が上がりました!

4時から10時の差分朝4時から10時の6時間の気温変化(差分)です.

ちょうど沿岸前線ができていた所で一番の温度上昇があったことが分かります.1時間毎の気温変化の図をよく見ていただくと,沿岸前線も次第にその温度傾度が広がってきているのが分かります.つまり,短時間で一気に気温が上がる感は,早いうちに暖気に攻め落とされた南岸のほうが大きいということです.

辻堂 東京

左が辻堂の観測,右が東京の観測です.10分間隔で見ていて,赤い太字が気温(10分間平均)です.1時間で10℃ぐらい上がる,という変化は同じぐらいなのですが,10分間でどれだけ上がったかで比較してみると,辻堂のほうが一気にビシッと空気が入れかわり,それに比べると東京のほうはぬるぬると上昇しています.この辻堂の10分間で8℃以上上がる感覚ってどのような感じなのでしょうねー.体験してみたいです.

ということで,見ていただいたように,関東の冷気層は雨がしっかり降っていたせいもあって,今回もかなり頑張り,結局内陸まで南が入ることはありませんでした.そりゃ内陸だって雨が止んで晴れたら,普通に温度は上がりましたけどね.

多分,関東以外にもこんなふうに冷気がたまってしまう所とか,冷気じゃなくてもその土地特有の気象って,全国各地にたくさんありますよね.例えば,自分の住んでる所にはどんな特性があるのだろーか?と探ってみるといいかもしれません.

2015年12月12日~天気はコロコロ変わる~   合同会社てんコロ.
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